日光室
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20240503

アズマリムは怖いときにベイビィ・ポータブル・ロックをうたう。それに倣って私も口ずさんでみる。春なのにデートもしないの?

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 いちばん偉いひとの気分で毎日異なる時間に号令がかかって、そのあと大きなテーブルを囲うように皆で昼食を摂る休憩時間が嫌いだったという瑣末なポイント以上の辞めた会社に関する愚痴を言い募る気もないが、とにかくその日は昼を各自で済ませるようにと言われ内心で小躍りしていた。しかし、それも事前に知っていれば弁当のひとつでも作ったのだが。仕方がないので可能な限り出費を抑えるべくサイゼリヤに足を運ぶ。くじさきが運転免許を取得した記念の配信を聴いていた。毎日働くことに関して「脳より先にさ、身体が慣れるのが怖いくじなんだよね」と言う。それに首肯できただけでも、私がそこにいた価値はあった?

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 数少ない休みのひとつを不本意ながら処方薬をもらいに行くのに費やす。本を読むべきか配信を観るべきか迷いがちな人間にとって、耳を塞ぐのが不適切な病院の待合室のような場所は案外ありがたい。頁を捲っているうちに名前を呼ばれ、薄暗い部屋に移動する。初診ですか? お引越しですか? お仕事の都合ですか? 特に問診というわけではなさそうな看護師の問いかけにはい、はい、はいと答える。採血の恐怖心を和らげるために雑談が利用されることがある、という話を思い出し身構えたものの、腕にゴム製の管を巻かれただけで終わった。このとき入手した薬はさっそく翌週に服用することになる。こっちに越してきてから偏頭痛の発作は既に三度もあった。

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 慣れない街の、あちこちにある掲示物に妙な引っかかりを覚える。「治療の内容により順番が多少あとさきになる事がありますので御了承下さい」「押さず引いてください」「小児半額。但し、は数は四捨五入」。それらの公共的な言葉にも確かに書き手がいることを、意味もなく意識した。

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ことばのおばけがまどからみているにじさんじ降霊術が青い鳥文庫や角川つばさ文庫なら、こちらはもっと幼少期に読む怖い絵本のような、イノセントな質感があった。アイドルっぽい共通衣装を纏いながらも楽曲のトーンは暗い。すると、まったく同じ周期でサイリウムを振り続ける、何度も見てきたはずの観客たちの姿も異様に思えてくる。そしてスポットライトは、懐中電灯の光のようにステージの上を彷徨いつづける。まるでふたりを見つけられないかのように。

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 ……考え事が散逸するのは今春に始まったことではないが、やはり悪化したように感じるのはメモを残す余裕さえ無かったからだろう。しかし4月29日には、バスの車内のモニターに映し出されていた星座占いの、天秤座への啓示を書きとる余裕はあったらしい。「不用品の処分をすると運気アップにつながります。大掃除◎」。

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たしか夏休みに実況したいと言っていた天穂のサクナヒメを、小清水は思ったより早く遊び始めた。そのとき夏休みは遠くへ放り投げられたのか、あるいは埒外の仕方で手繰り寄せられたのか?

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夕飯を食べたり、食器を洗ったりしながら名取の雑談を聴く。すると、配信上で話題になった映画の同時視聴をそのまま次枠で行う展開となった。基本的に腰が重くあまり同時視聴の恩恵に与れない私がそれを観たのは、その段取りの珍しさも理由のひとつだが、どちらかと言えば急に生じ(てしまっ)た暇な時間を、わかりやすく味わいたかったからだと思う。映画は名取とともに観られてよかったと思える類のものだった。  

 翌日の午前、ずっと気になっていた差込み口の緩いコンセントは住居の管理会社へ電話すれば解決するのではないかと思い立ち、急に連絡した。午後いちばんに業者のひとが来て、あっさりコンセントは交換された。確かな手応えを感じながら試しにテレビのプラグを挿す。すると、午後のロードショーで「武士の家計簿」が放送されていた。映像の質感が好みだったのでぼんやり眺め、結局最後まで観た。そのあとは夜まで適当に配信を流しつつ、放置していたエレキベースのリペアをし、朝方まで青葉市子「月の丘」のギターを練習していた。布団に入って眠る前、やはりくじさきが言っていたことを思い出す。「前から結構言ってるくじなんだけど、起きてから決めたいのね、全部、今日やることを」「前日から「明日はこれがあるから何時起きで」みたいなの本当に、心底嫌なんです!……けどね」。

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