プティのことも、トラックシミュレーターのこともずっと前から知っている。それなのに、なんの気なしに開いたある夜の配信が、救いや発見と呼ぶにも大袈裟な小さな感動(それさえも大袈裟な……)をもたらすことがある。液晶と向き合う私の体調や精神状態、もしくは室温、天候などの変数の組み合わせによって、配信の印象は変わる。それはあらゆる鑑賞に対して言えることだったが、対象もまた視聴者と同様の振れ幅を抱えているぶん、VTuberを始めとしたインターネット上の生放送は、時として想定外の場所まで私たちを導く。
VRChatお散歩配信にも似た独特な風通しのよさがユーロトラックシミュレーターの配信にはあり、それはやはりGeoGuessrとは少し異なる。実写と似て非なる風景のなかにVTuberが立ったときの不思議な奥行き。かれらが「来る」のではなく、私たちが「行く」あるいは窓越しに「見る」距離感。そこに、おそらく転地療養的な癒やしが生まれる。プティ直々に公式までリプライを送って権利を確認したという日本マップMODの、見慣れた左側通行の眺めなら尚更、ゲームという意識は後退する。
リングコンをしれっとハンドルに見立てるプティは、しかし文字通りの事故的な面白さは差し置いた安全運転でトラックを走らせる。事前に用意したらしいBGMのプレイリストを流す。海に行くぞと口走り、コンビニやサービスエリアに後ろ髪を引かれながら、高速道路を囲う山々に栃木の故郷を重ねる。そして平然と「ドライブ的なこと」を言う ……「ジュースのキャップを開けてくれんか?」。常に「みんな」をどこかに「連れていく」ために話は進む。その言葉の通り、昨夜の私も確かに、気づけば淀んだ四畳半から遠くまで誘われていた。
近しい経験は以前にもあった。2020年の、同じような夏の夜である。夜食を口に運びながら眺めていたクレアさんのトラックシミュレーターの配信に、ささくれ立った心は慰められた。ピンポイントで覚えているのは、それを当時のブログに書いたからである。昨晩のこともいつか思い出せるように、こうしてまた書き留める。