気持ちだけは眠りたかった午前1時ごろ、YouTubeをスクロールしていると初鹿野ことなの「ファミレスを享受せよ」の待機所が目についた。15分から開始のわりにツイートもなく、なにかの手違いかと思ったが、配信は少し遅れて普通に始まった。ひがな一日なにかしらの配信を流していると、告知よりも先にゲリラの待機所を見つけることがある。
気になっていたゲームだったので自分のために残しておこうかとも思ったが、うっすらと知っていたあらすじや雰囲気が初鹿野に合うように思ったので視聴を続けた。その予感は正しかったと思う。「話題」を選択し、「雑談」を展開することで進めていく物語。なにより永遠のファミレスという場所は、停滞の美しさと、その不可能性の感傷をともに抱えているような人にふさわしいと思った。勝手な印象である。
謎解きに頭を悩ませているうちに外は明るくなる。初鹿野が酒を開けたあたりからの記憶は曖昧だが、無事に最後まで見届けることができた。午前6時を回っていたと思う。いつしか配信は観ることより流すことのほうが多くなり、それを否定する気もないのだが、没入したあとの特有の充実感をひさしぶりに得られてうれしかった。声や読みかた、話の調子がゲームの内容と混じりあって、独特の経験に変わるのが静かな実況のよさだと思う。そんな魅力に充ちた配信だった。初鹿野はそれから出勤の支度を始めたらしい。私はなにも流さずに眠った。
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翌日(今日)、いやいや背広を着て近所の証明写真機まで歩いていた夕方、月が大きく出ていることに気づいた。明後日が満月らしい。「今日、ファミレス行って月見ちゃうぜ」と初鹿野が配信を終える間際に言っていたのを思い出す。